酒津の地にて
酒津榎窯は、倉敷市の水源である酒津の、配水池隣りに位置し、水と緑の恵みを感じる、四季折々の豊かな自然に囲まれています。武内立爾氏は、祖父が大原美術館初代館長であったことから、民芸を中心とした工芸に触れる環境に育ち、いつも陶芸を身近に感じ、その道を志しました。大学で陶芸を専攻後、アジア、ヨーロッパを陸路で旅し、昭和61年(1986年)に生まれ育った酒津の地に窯を開き、庭の古木にちなんで、「酒津榎窯」と名付けました。
「民芸」という枠にとらわれない創作陶器を制作し、年に3~4回、地元、東京をはじめとする各地の個展で、新作を発表しています。
赤と青の器
特徴的なのは、作品の上で自由に混ざり合い美しく発色する釉薬の表情です。赤、青、緑、黄、茶、白、黒・・・淡、濃。その中でも目立っているのは、辰砂の赤、呉須の青。武内氏にとって、築窯以来こだわって表現し続けている特別な二色です。
ただ赤いだけでなく、どこまでも鮮やかな赤色は、窯を徹底的に管理しながらも、炎が力を貸してくれた時にやっと実現できるという、大変発色の難しい色なのだそうです。思いどおりの満足いく結果になかなか至らないところが、この釉薬の魅力であり、だからこそのめり込み、作り続ける由縁であるのでしょう。また、果てしない宇宙、深く澄んだ海、青い色には何か懐かしい、いつも寄り添っていたいような魅力を感じずにはいられないと彼は言います。透明な赤、深遠なる青、この二つの原色を主に、釉薬の複雑な色合いを、器の上でどのように表現するか、今後も武内氏の熱い挑戦が続きます。
生活の中で
遠くの山まで見渡せる、見晴らしの良い展示室は、野鳥の声に耳を傾けると緑の風が渡る、ほっとくつろげる空間です。強い個性を主張する一点物や、様々なスタイルにフィットしそうな生活の器まで、こだわりの品200点余りを展示。
鮮烈な存在感を放ちながらも、使い手の心を包み込む、酒津榎窯。「生活の中で、使っていただいてこそ、生きる焼物です。心行くまで手に取って、イメージしながらお気に入りを見つけていただきたい。」ゆっくりと焼物と対話しながら、いつもと違った時間が過ごせることでしょう。
(2013.08)