大きいものは3kg以上 -果実の産地・玉島で栽培される「愛宕なし」-
その大きさを見れば一目でこれだとわかる、「愛宕なし」。並外れた大きさが特長で、大きいものでは3kg以上、また直径は20cm以上にもなり、初めて愛宕なしを見ると驚かれる人も少なくありません。また、果実の肉質は柔らかく、独特の強い甘みが味わえます。
この愛宕なしが栽培されているのは倉敷・玉島地区。岡山県は全国一の愛宕なしの産地であり、中でも玉島は県下有数の愛宕なしの産地にあたります。収穫するまでには各農家が工夫をし、苦労しながら栽培されています。愛宕なしのルーツは大正4年(1915年)に新高梨などの梨の交配に関わった、菊池秋雄氏によって「二十一世紀」と「今村秋」の2種を交配し、誕生した品種で、育成地の近くにあった愛宕山(現在の東京都)にちなんで命名されました。
1年を通して育てていく「愛宕なし」
では、愛宕なしはどのように栽培されているのでしょうか。玉島北園芸協会・梨部会会員の中川洋平氏は「愛宕なしは他の梨に比べると収穫時期が遅いため、その分手間が一層かかるんですよ。」と語ります。
12月頃に収穫を終えた後、土壌作りに入り、整枝のせん定などを行い、少し暖かくなってきた3月下旬になると葉になる芽が発芽し始めます。そこから開花していきますが、梨は全般的に自分と同じ品種の花粉では上手く受粉せず、実になりません。そこで、他の梨の品種の花粉を使って、愛宕なしの花(雄しべ)に花粉を1つ1つ付けていきます。そうすることで、緑色の実が丸く育ってきた5月、梨と梨が隣接しすぎると、後々梨の表面の傷の原因や成長の妨げとなるため、実を間引きます。
実を間引いた後は主に防虫や傷などから身を守るために小袋をつけて、6月頃大きくなった実に2回目の袋をつけます(大袋掛け)。梨の表面に傷がついてしまうと、変色や裂け目が起こってしまうことは農家にとっても売値に繋がるため、袋をかけることや、間引くことは重要な作業になります。
やっと迎えた1年に1回の収獲日
小袋を付けた後も、農家の作業は続きます。
風通しを良くして、日光を当てるために伸び過ぎた枝を切ったり、芽をとるなどして、1つ1つの愛宕なしに栄養がまんべんなく行き届くように配慮をします。更に、7月には果実の肥大を促すため追肥します。そこから約3か月間も防虫対策、防風対策、水やりなどがなされて、やっと11月中旬に収穫を迎えます。しかし、台風や虫に食べられたりなどの自然環境によって、大切に育てた全ての梨が出荷できるわけではありません。特に、横の動きに弱い愛宕なしにとって、強風は天敵。台風が来るときは、梨が枝から落ちないかどうかと心配になります。
そして、ついにやって来る収獲日。愛宕なしの収獲は1日で終わるため、1年で1回の収獲日となるわけです。大きく育った愛宕なしを横に手でねじるようにすると、簡単に枝から採れ、その後は収穫かごへと詰められて、農家で追熟(食べごろまで待つことを「追熟」という。果実が、呼吸の上昇、エチレン排出などとともに酵素活動が盛んになり、軟化の進行、糖、酸および香の変化を伴い可食に達する現象)され、出荷されていきます。
「梨」は全般的に日持ちする果実ですが、中でも愛宕なしは収穫時期がほかの梨よりも遅いため、お歳暮などの贈答用、そしてお正月でも食べれる梨として大変人気があります。
(2013.11-11)
こだわりに応えられる匠
織機、糸車等製造、和額製造鮮烈な存在感と、使い手の心を包み込む温かさ
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