素隠居の由来
素隠居とは、阿智神社の例大祭の際、御神幸の獅子に付き添って歩く翁(おきな)と媼(おうな)の面をかぶった若者のことです。ラッキョウのような形をしたこの面はとても特徴的で小さな子どもは怖がって逃げるほど。しかし素隠居の持ったうちわで頭を叩かれるとご利益があるとされ、怖がる子どもを抱きかかえ叩いてもらいに近寄っていく親子連れの姿は祭りの時期、美観地区周辺の風物詩となっています。
この素隠居の面の由来はいくつか説があります。現在もっとも真実に近いのではと言われているのは、江戸元禄5年(1692年)に戎町の宰領をつとめていた沢屋善兵衛というご隠居が年齢のために神社の階段を登れなくなり、自分の代わりに面を付けた者を代参させた、というものです。
途絶から再興
実は、素隠居に関わる行事は、一時途絶えたことがありました。昭和50~60年代にかけて面をかぶる人が次第に少なくなり、祭りの行列から素隠居が姿を消すようになったのです。そのことを寂しく感じていた地元の有志が平成3年に「倉敷素隠居保存会」を結成、市内の小学校などへの働きかけもあり見事再興を果たすことに成功しました。
現在、素隠居の面を通年で製作しているのは、一草一木亭のご主人、中村弘文氏ただ一人。中村氏自身も倉敷素隠居保存会の中心メンバーで、作り手のいなくなった状況を憂い、造形作家の真鍋芳生氏に師事することで面作りの一歩を踏み出しました。阿智神社へと続く階段下の工房には大小の素隠居の面が並び、ここで年間100組ほどの面が新たに生み出されます。
一つ一つ手作りで
面作りの工程は、まず粘土で原型を作ることから始まります。窯で焼き上げ表面に和紙張りしてニスを塗って出来た原型を元に、面の本体を作っていきます。本体は和紙の水張り、のり張り、にかわ塗り、胡粉(ごふん)塗り、乾燥などいくつもの工程を重ねた上で表面を磨いて色や髪の毛などを付けていきます。製法は昔と変わらず、もちろん一つ一つ手作りで仕上げます。
一草一木亭では一般販売も行っているほか、事前予約で面作りの体験も可能。体験料金は1組3,000円(税込)です。